会社が従業員のためにさまざまな費用を支給してくれる福利厚生。実際にはどこまでが福利厚生費として認められているのか?なかなかわかりにくいものです。
社内行事のひとつ「社員旅行」も、とにかく社内で旅行すれば、福利厚生費に計上できるのか?といえば、そうではありません。
「5泊6日でハワイへ研修旅行に行く」
「社員旅行に行きたくない人が多く、全社員の1/3しか参加しない」
「営業成績上位の社員へのご褒美として、温泉旅行に連れて行く」
このような社員旅行は、福利厚生費として処理できずに課税対象となる可能性が出てきます!具体的な事例をもとに、詳細を解説していきましょう。
福利厚生費として社員旅行を経費に計上する方法ですが、まず「社員旅行」とは「社員の慰労を目的とした旅行」であることが大前提です。
そのうえで、以下の3つの条件が必須となってきます。
要するに「贅沢すぎる旅程にしない」ということ
海外への旅行だった場合、滞在期間は4泊5日で機内泊はカウントしない
工場や各支店ごとに旅行する場合はその工場、各支店ごとの従業員内で50%以上であること
これらをふまえた上で、どんな社員旅行が福利厚生費として計上されないのか?解説していきましょう。
「社会通念上一般的」とは具体的にどの程度を表すのでしょうか?
国税庁の所得税基本通達(36-30)に記されている「使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより……」の「社会通念上一般的に行われていると認められている旅行の費用」について、どう解釈すればいいのか?悩むところです。
まず目安となるのが、社員旅行にかかる金額です。ひとりあたり概ね10万円まで、とされています。会社の福利厚生費として、ひとりに10万円までの旅行費用を出してあげられる、ということになります。
実はこの社員一人あたり10万円までokとされる会社負担額も、過去の判例をもとに解釈された結果なのです。「社会通念上一般的」とされる解釈について、過去の判例をもとにひも解いてみましょう。
過去に東京地裁で下された判決に、ある会社の社員旅行を福利厚生費とは認めずに給与課税するべきとの判断が下されたものがあります。その社員旅行の内容は以下の通りです。
まず「2泊3日」の旅行日程は問題ありません。「従業員の50%以上が参加している」点についても、福利厚生費として問題はありません。
最後の「旅行費用がひとり当たり240,000円以上である」という点について、この費用が「社会通念上一般的」という基準に照らし合わせて妥当ではない、との判断が下されたのです。
この判断を下す上で、裁判所としても過去の海外への社員旅行でかかった費用の平均額と会社の負担額を調査し、そのデータをもとに「社会通念上一般的」とする「基準」を検討しました。
「海外への慰安旅行における一般的な会社負担額(旅行費用の平均額8万1,154円の70.1%に相当する5万6,889円)を大きく上回るものであるから、それについて少額不追求の観点から強いて課税しない取扱いをすべき根拠はないものといわざるを得ず、本件旅行は所得税基本通達36-30にいう「役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」行事に該当すると認めることはできない」
(東京地裁平成24年12月25日(平成23年行ウ第385号判決文より抜粋)
判決文にあるとおり、過去の海外への社員旅行における旅行費用の平均額8万1,154円を導き出し、その70.1%に相当する「5万6,889円」を社会通念上一般的とする会社負担額の基準に考えたのです。
この基準に照らし合わせ、ひとり当たり24万円以上の会社負担額は一般的ではない、との判断が下されました。
この判決により、マカオへの社員旅行は従業員の給与として課税されることになりました。
それにしても超有名ホテルに宿泊して、豪華なレストランでのお食事というのは、社会通念上一般的ではなかったかもしれませんね。
社員旅行の参加者を「役員のみ」であったり「営業成績優秀者へのご褒美」などと限定してしまうと「福利厚生費」としては計上できなくなります。
まず「営業成績優秀者へのご褒美」として旅行が与えられる場合は「給与所得」に該当し、課税対象となります。
次に「役員に限定しての旅行」ですが、役員による業務以外の旅行はすべて「役員賞与」とみなされ、所得税の課税対象となります。役員のみの観光が目的の旅行は「賞与扱い」とされるからです。
もし、業務上必要な「出張」として行く視察旅行ならば、あまりにも高額でなければ会社の「旅行交通費」として処理することができます。
ただ、役員による海外渡航となると税務署からのチェックもかなり厳しくなりがちです…。「いかにこの出張が業務上必要であったか」を証明しなければなりません。
旅程表や訪問先一覧をあらかじめ用意しておくようにしましょう。
役員による出張の場合、グリーン車やビジネスクラス、ファーストクラスを使用することも少なくありません。これらは経費として認められるのでしょうか?
役員は業務上、重要な決定を任されている重責にあります。エコノミーで長時間移動したことがビジネスに悪影響となった、なんてことになれば会社として大問題になりかねません。
このことから、たとえファーストクラスで移動したとしても「経済的利益の供与」には当たらないとして、「交通費」としての処理が可能となる場合もあります。
※あらかじめ、ビジネス・ファーストクラスで移動しても良いという内容で「役員旅費規程」を定めておく必要があります。
ただし、役員の出張は金額が大きくなりがちなので、必ず領収書など証明できる書類を保管しておくようにしましょう。領収書等がない場合「役員賞与」として課税対象にされてしまいます。
参加しない従業員に金銭にて旅費を支給することは「給与」となり、課税対象となってしまいます。
社内で社員旅行への参加者を募集する際、「旅行に参加するか」もしくは「旅行費用を金銭、もしくは旅行券、クーポン券で受け取るか」を選択させると、その社員旅行自体が福利厚生費に勘定できなくなってしまいます。
現金ではなくクーポンなどの旅行券で旅費分を受け取ったとしても、その旅行券自体が換金性の高い券だと判断された場合は「課税対象」となってしまうので十分な注意が必要です。
不参加だった従業員だけが課税対象になるのではなく、社員旅行の参加者全員が所得税の課税対象とされてしまいます。
ただし、給与天引きにて社員旅行代金を積み立てにしていた場合の旅費返金は、課税対象とはなりません。
また、宿直などの業務上どうしてもやむ得ない理由による不参加だった場合に限り、旅費分を金銭にて支給することは可能で、その当事者のみが給与所得として課税対象となります。
いつもお世話になっている取引先の営業担当を社員旅行に招待する、なんてことも珍しくはないようです。
この場合は招待した相手から旅費をもらうことは考えられませんから、取引先の参加費用分は「接待交際費」として勘定することになります。
「福利厚生費」とは、従業員が快適に働ける職場に整備することを目的に会社が支出する費用です。全社員に等しく権利があるものでなければなりません。
ちょっとした認識の誤りによって給与として課税されてしまう、なんてことにならないように、必要最低限の知識だけは備えておきたいものです。
■参考文献
・福利厚生/社内行事ハンドブック 各種福祉施策の実態、福利厚生・社内行事を活用した社内コミュニケーションの活性化に向けて 産労総合研究所(編)産労総合研究所出版部経営書院
・小さな会社の税金と節税がわかる本 ’13~14年版 成美堂書店
・役員に学ぶ「闇給与」のススメ 大村大次郎 光文社新書
・経費で落ちるレシート・落ちないレシート 梅田泰宏 日本実業出版社
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