自分が就職した会社は毎年「社員旅行」がある。原則、参加といわれたけど「行きたくない」「ストレス」だし、半ば強制的に参加しなければならないというのは「パワハラ」なのでは?
今回は「社員旅行」の参加を会社から問われたら、上手に断ることはできるのか?「強制」参加といわれたら、「パワハラ」なのではないか?、といった参加義務について探ってみます。
歴史のある会社で毎年社員旅行を開催している会社もあれば、若手の多いIT企業で積極的に社員旅行を活用しているような企業もあります。たまたま、その年儲かったので、報償旅行の意味合いで社員旅行を行う会社もあり、会社によっていろいろです。
会社側の意図としては、社員旅行を通じて円滑なコミュニケーションを謀り、普段の業務の遂行にプラスに働くことを期待しています。しかし、一方で、できることなら参加したくないという人も少なくありません。
社員旅行への参加が義務なのか?強制なのか?は、各企業の社員旅行の位置づけによって変わってきます。会社が社員旅行を、業務として扱っているか否かで整理してみました。下記表の項目毎に、①からみていきましょう。
業務扱い | 業務ではない | |
①社員旅行への参加 | 原則参加(強制) | 自由 |
②会社側の意向 | 参加必須(業務命令扱い) | 必須ではないが原則参加して欲しい |
③費用負担 | 会社が負担 | 会社による(社員負担のケースあり) |
④社員旅行の目的 | 慰安・研修・視察など | 慰安・親睦など |
⑤社員旅行の実施日 | 平日が多い(休日の場合は休日出勤扱いになる) | 休日が多い(休日出勤扱いにならない) |
⑥欠席した場合 | 欠勤扱い(マイナス評価を受ける場合もあり) | 平日実施なら出勤(有給を取ることも可) |
自分の会社が実施する社員旅行が「業務扱い」なのか、「業務扱いではない」か、どちらに該当するかまず確認しましょう。
「業務扱い」であれば業務を実行する義務という意味において強制力を持ちます。「強制」と言うと聞こえが悪いですが、要するに「仕事してください」ということです。
従って、社員旅行への参加を促されても、パワハラにはなりません。
業務であれば、特段の事情なく参加しないと、大げさに言えば業務放棄と見なされても仕方ありません。
社員旅行の不参加だけをもって、直ちにマイナスの人事考課がされるとは考えにくいですが、社員旅行をもの凄く大事にしているような組織では、「社員同士の円滑なコミュニケーションがなされているか?」といった評価軸で大きくマイナス評価を受けることはありえます。
社員旅行を業務と位置づけていれば、当然、参加を前提にしているわけですが、業務扱いでない場合は、どうなんでしょう。
社員旅行を開催するという時点で、会社としては参加が望ましいと思っているわけで、参加が任意であったとしても、実際のところ無言の圧力を感じるケースも多々あるようです。
無言の圧力的な話は、程度問題になるので、「その時代における価値観で、一般的に考えてどどうなのよ?」という話になり、なかなか線引きは難しいところです。もちろん、威圧的に罵倒されたとかであれば、十分パワハラになるでしょう。
嫌だなと思っていたとしても、空気を読んだ方がその後の会社生活が過ごしやすくなりそうなら、参加することを考えてみてください。「社員旅行に行く前は、嫌だったけど(食わず嫌い)、実際に行ってみたら、普段話をしない人と話しができて楽しかった」というような感想は良く出ます。
何が何でも嫌なのであれば、頑張って理由をつけて不参加にしましょう。「身内に不幸があった」「身内の結婚式に出席」などのウソの言い訳だと、葬儀の通知や結婚式の招待状の提出を求められると困ったことになります。
社員旅行の費用(の一部)が、社員負担になっているケースもあり、社員負担は横暴だ!と考えている人もいます。社員負担が発生するのは、間違っているのでしょうか?
業務かどうか | パターン |
業務の場合 | 旅費は会社負担 ※+αの部分は社員負担 |
業務ではない場合 | ・会社負担(福利厚生の一環) ※会社負担の忘年会などと同様 ・社員負担(一部もしくは全部) ※有志で行う送別会などと同様 |
まず社員旅行が「業務」扱いであるなら、旅費は全額会社が負担するのが原則です。業務でなければ会社が全額負担する必要はなく、社員が費用の負担をしてもおかしくありません。
会社主催の忘年会の費用は会社負担(福利厚生費)ですが、忘年会の後の2次会や、仕事帰りに部署のメンバーでいく居酒屋はワリカンなのと同じ構造です。
職場によっては、毎月給料から一定額を天引きし、社員旅行の費用の一部に充てている会社もあります。
良く出る質問で、「任意参加の社員旅行を欠席した場合、積み立てておいた旅費は返ってこないのか?」「返金しないのは違法ではないか?」というもの。
社員旅行を唯一の目的として、本人の旅費として同意の下で積み立てていた場合は、不参加であれば返金されるのが当然です。労働基準法により、給料は全額支給が原則です*(社会保険料などを除く)。旅行のキャンセル料など合理性がある部分を除き、返金されないのは違法性があると考えられます。
*全額払いの原則
労働基準法第24条
賃金は全額残らず支払われなければなりません。したがって「積立金」などの名目で強制的に賃金の一部を控除(天引き)して支払うことは禁止されています。ただし、所得税や社会保険料など、法令で定められているものの控除は認められています。それ以外は、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と労使協定を結んでいる場合は認められます。
しかし、親睦目的でプールされており、社員旅行だけでなく、送別会、その他の場面にも積み立て金が利用されている場合は、返金されなくてもおかしくありません。ただ、この場合でも、積み立てること自体に同意していたかを争うことは可能です。同意なく、勝手に天引きされていたのであれば、違法性があります。
※同意は、本人が話しを聞いてなかっただけで、労使協定や就業規則などで、同意されている場合もあります。
また、「親睦を深める会」のような明確な会員組織として運営がなされており、その会費として徴収されているような場合は、その親睦会の会則に従うことになります。半ば強制参加の労働組合と同じ理屈です。
入社するとその会の会員になり会費を払い、プールされた会費で社員旅行だけでなく、送別会やその他イベントなどが開催されたりします。会則次第ですが、飽くまでも会費として払っているので返金されません。
この手の会は、業務ではありませんので、任意の参加ではありますが、実質は全員参加となっている場合が多いようです。この会員組織への参加が「強制」であることを疑問視するのは、建設的ではないように思います。
そもそも社員の(昔ながら?の)親睦を大事と考える会社の文化なので、その意味では入社前に会社のカルチャーを確認しておいた方が良いでしょう。
雇用関係として社員旅行の費用負担をどうするかという話とは異なり、税法上どう経費処理するかは別問題になります。
経費として処理できる要件は、税務的に定められています。指針の範囲内であれば、福利厚生費(経費)として処理できます。その範囲については、詳しくは関連記事を参照ください。
▼関連記事
・こんな社員旅行は福利厚生費(経費)として処理できない
・社員旅行の「家族同伴」は経費になる?福利厚生費徹底解説
社員旅行のプランが観光やアクティビティ、宴会だけで慰安(レクレーション)目的の場合は果たして「業務」といえるのでしょうか?
労働基準法上の労働時間は、事業主等の指揮命令下にあって業務に従事する時間のことをいいます。事業主が慰安目的であっても社員旅行は業務上欠かせないものであり(コミュニケーション活性化や組織力強化に貢献する、など)、参加を業務(強制)と判断しているならば労働時間となります。
最近では、社員旅行でアイディア出し会議や勉強会、チームビルディングなどなど、単なる娯楽ではないプログラムを盛り込んだ研修旅行として実施するケースも増えています。あるいは、他社のビジネスの現場を見学する工場見学や店舗視察なども行われています。
こうした取り組みは、業務上の必要性が明らかになるので、参加を促す会社側にオススメです。参加する側も、何か新しいプログラムが導入されるようなら、前向きな参加を考えてみましょう。
百歩譲って日中の業務時間は参加するけど、夜の宴会や親睦会、ホテル・旅館への宿泊は「業務」には当たらないから欠席したい、というのはアリなのでしょうか。
夜の宴会を「時間外勤務」に位置づけているケースは余りないかと思いますので、一般論としては不参加は可能です。朝早くからお出かけして、本当に体調崩して欠席するもありえるでしょう。
ただ、実際問題、みんなが参加するという空気はあります。「ここまで来て会食に参加しないとかありえん!」と、怒鳴る上司もいるかもしれません。せっかく社員旅行に参加していているのですから、頻繁にあることではありませんので、普段あまり接点のない相手と話をするゲームと考えて、チャレンジしてみてください。
もちろん、過去に会社の飲み会でトラウマがあるとか、絶対に参加したくないということでしたら、体調不良が無難な欠席理由かと思います。長距離移動で車酔いしたとか、運動不足で普段よりも動いたら食欲なく気持ち悪いとか、うまく切り抜けましょう。
社員旅行の実施日が休日のため、せっかくの休みがつぶされて嫌、という声もよく聞かれます。社員旅行の実施日は平日なのか、休日なのかについては以下の通りです。
社員旅行が「業務」扱いならば、平日に行うのが一般的です。休日に実施する場合は「休日出勤」となります。休日出勤なので、休日手当や代休で処理されます。
社員旅行が業務として平日に行われる場合、参加するのが大前提ですが、どうしても参加できない場合(意地でも参加したくない!)、有給休暇を使って「社員旅行不参加=業務を休む」ということは可能です。無言の圧力は別の話、ですが・・・。
休日出勤扱いの場合、そもそもが休日なので有給休暇の取得ができません。また、一般的な就業規則等には「労使協定がある場合は休日出勤を命じる。従業員は特段の事由がない限り、休日出勤命令を拒否できない」という内容の規定があります。
この観点からも、特別な理由がなければ、不参加というわけにはいかないでしょう。
業務が休みの日なので賃金はカットされることはありませんが、休日出勤命令に従わなかったということで、人事上マイナス評価はありえます。結果として、賞与の減給や昇給の査定に影響が出る可能性はあります。
会社側で社員旅行を任意参加と位置付けている場合、プライベート旅行と同じことなので通常は休日に実施し、休日出勤扱いになりませんし、賃金の発生もありません。
休日だと混雑するし、旅費もが高くなるので平日に実施するという会社(職場)もあります。この場合、不参加の従業員は通常通り出勤して業務をおこなうことになります。ただ、不参加の人だけ出勤しても実質営業できない場合、(合意の上で)有給休暇としているケースが多いです。
社員旅行を欠席した場合の処理は、日程が平日なのか、休日なのか、平日から休日にかけてなのか、所定休日のスケジュールがどうなっているかなど、会社によって異なります。
ざっくりというと以下のような感じになります。
社員旅行の扱い | 欠席した場合 |
業務扱いの社員旅行 | 欠勤(有休休暇にする場合もあり) |
任意扱いの社員旅行 | ・休日開催なら、欠席して休日を過すだけ ・平日開催なら、出勤ないし有休にする |
普段は休日でも、社員旅行に行く土曜日を休日扱いにしないようなケースもあります。法定休日(週1日)は法律で決められていますが、その他の休日(例えば土曜日)は会社毎のルールなので、処理の仕方は会社毎に違います。欠席した場合に、どういう扱いになるかは会社に確認しましょう。
なお、有給休暇は社員側の権利なので、「有給消化にしたくありません、出勤して働きます!」という主張も可能ではあります。
人事考課や、各種査定の評価軸は会社の文化や価値観に依存します。もちろん、性別、人種、宗教などを、評価の対象とすることは禁じられていますが、会社運営にあたりどういう評価軸を導入するかは、会社の自由です。
社員旅行に限らず、各種イベントや、飲み会などの催しを通じ、結果として社員同士のコミュニケーションが活性化することを良しとする会社は少なくありません。こうした価値観の会社の場合、「社員同士のコミュニケーションが円滑にできる」「積極的に他のメンバーとコミュニケーションをはかっている」などの評価軸で、社員旅行の不参加はマイナス評価をうけることはあるでしょう。
ボーナスを減額されたというような場合、「(いきたくない)社員旅行にいかなかったから、ボーナスをマイナス査定された」、という1対1の因果関係ではなく、普段から「コミュニケーションに難あり」と評価されている可能性が高いです。
「何故、この会社の人と仲良くしなければいけないの?」など、その会社の価値観自体に否定的なのであれば、転職や自分の仕事観も含めて一回冷静に考えてみる必要があるのではないでしょうか。
もちろん、家族に不幸があったなど、正当な理由があるにも関わらず、社員旅行の欠席によって不利益を被るなら、これは不当性を問うことができます。ただ、この場合でも、社員旅行の欠席と不利益の因果関係を明らかにする必要があり、簡単ではありません。
不参加を上司に相談したら、「罵倒された」とかですと、明らかに行き過ぎですので、社員旅行云々ではなく、罵倒の程度問題でパワハラを問うことになるかと思います。社内のコンプライアンスの窓口に相談するか、深刻な場合は、労働基準監督署や弁護士に相談する話になってくるかと思います。
まずは所属している会社が社員旅行を業務の一環として「強制参加」としているのか、「任意参加」としているのかを確認してみましょう。
<まとめ>
最後に、視点を変えて、積極的に幹事を希望して、自分が理想とする社員旅行を思い切って実施する、というのも手です。自由時間を多くする、宿泊先のホテルの部屋を個人部屋にしてもらう、など、いろいろ工夫することは可能。社員旅行のプロを頼りつつ、「参加したい」と思えるようなプランを、提案してもらってはいかがでしょうか。
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